人生100年時代、地域社会が目指すもの

共生、共助の暮らしを石川の地に濃密なコミュニティー意識を活用。コロナ禍で分断された絆の再生を。

― 新型コロナウイルス対策で、昼も夜もない多忙な時にインタビューをお願いしまして。それどころじゃないと仰りたいとは思いますが。

谷本 県内では、2月に初めて感染が確認されて、3月までは感染者は多くはなかったが、4月に入って状況が変わった。医療機関など複数の業種で、クラスターが同時多発的に発生し、これが石川県の感染者数を大きく押し上げた。そこで、県として独自の「緊急事態宣言」に踏み切ったが、その後も感染が続き、長期間の戦いになってしまった。

― もともと石川県は災害などの少ないところで、在職中に対応に追われたと言えば、記憶にあるのは、平成9年のナホトカ号重油流出事故で県内の海岸が油まみれになった時と、平成19年の能登半島地震ぐらいでしょう。県組織全体が危機への対応に慣れていなかったということがあるのでは。

谷本 重油の漂着や地震対応は、いずれも、ことが発生して復興の道筋をつけていく仕事だったが、今回ほどすべての県民を対象に断続的に命が脅かされるという災禍は過去に例がない。そういう意味では、県あげての対策は初めての経験だったが、医療従事者はもとより、自発的に休業に入った大型商業施設もあって、企業や県民がこぞってコロナウイルスとの闘いに協力してくれた。

― はしなくも、何かあれば一丸となれる地域社会の連帯の強さが現れたといえますか。

谷本 コロナ禍のような災禍に立ち向かうには、県民皆が危機感を共有し、行政だけでなく、社会全体が一致団結して対応しなければ克服できない。石川では、命や健康を守り、安全で安心な社会を作るには、地域全体が一緒に進まなければという意識が高いのだと思う。そういう意味では、これからの少子高齢化社会で求められる、共生、共助と言った考え方を実践できる土壌が、石川にはあるのではないか。

「長生きの質」が問われる

― 話を本論に乗せていただきましたが、知事自身は、人生100年時代といわれることをどうとらえていますか。

谷本 ひと昔前は、60歳といえばもう高齢者という感じだったが、今や70歳を超えて元気に働いている人は多い。もはや60歳イコール老人という時代ではないと思う。今や日本は世界トップクラスの長寿国なわけで、平均寿命は平成の約30年間で、5歳以上伸びている。こうした中で、いかに健康寿命を延ばし健康で長生きするか、いわば長生きの質が問われているということではないか。

― 人生100年といわれて、そもそも知事は何歳まで生きると思ってますかね。毎朝、しっかり歩いておられるようですが。いつも快活な知事ご自身にとって、健康長寿、生きがいづくりで実践されていること、まあ100年を軽やかに生きる極意見たいものがないか、どうでしょう。

谷本 そりゃあ、真面目に規則正しい生活を送れば、長生きはできるだろう。しがみついてまでとは思わないが、普段の生活を続けていて、結果として、100歳になるということはあるだろうと思う。

知事に就任してから、とても不規則な生活だったが、これではまずいなということで、就寝時間は夜10時、5時起床と決め、約1時間、早朝ウォーキングを日課とした。以来、20年間ほどずっと続けている。栄養のバランスも心がけてる。昼は妻(委香さん)の手作り弁当で野菜をたくさん採るようにして、おかげさまで、今日まで大した病気もなく、健康に過ごしてきている。

健康寿命延伸へ「フロンティア戦略」

― 高齢者の健康長寿を守っていくということでの、行政としてできることはあるのでしょうか。

谷本 石川ではもう20年も前に、全国に先駆けて、「いしかわ健康フロンティア戦略」を策定している。健康寿命の延伸を目指す狙いで、まだ人生100年時代などと言われる前から、高齢者を対象に総合的な健康づくりの推進に取り組んできた。長生きするには、元気で自立した生活を長く送れることが大切で、そのためには、バランスのとれた食生活を心がけ、日頃から体を動かすこと。そして生きがいを持って心豊かに生活することが肝要ということで、そうした活動を後押ししている。

― あんまり趣味の話なんかは聞いたことがないですが、この先まだ長い人生が続くとして、仕事以外でやってみたいなあと思っているようなことはないのですか。

谷本 まあ、趣味はと言われたら、ウォーキングかな。それから、DVDで録画した映画も見る。昔の映画でも結構面白い。早いもので、石川の地に住まいをするようになり四半世紀を超え、私の人生で一番長く住んでいる土地になった。最も愛着があるというか、ふるさとといえる地となった。今は、石川県のさらなる発展のために身を尽くしたいと思っているだけで、それ以外のことを考える余裕がないというのが正直なところだよ。

高齢者の就労、社会参加を後押し

― 高齢者の存在感を高めるためにもプロダクティブエイジングの推進が必要だと思いますが、高齢者が働き続けるのは、生きる意欲を保つうえでも役立つのでないですか。そのために、高齢者の活躍の場の提供が求められますが、石川において生涯現役社会はどう実現されていくのでしょうか。

谷本 経験と知識を持った高齢者が働き続けられるというのは、少子化で人手不足が続く中では、企業の人材確保ということでも意味がある。県内の企業でも、元気な高齢者の活用に動き出しているところがある。ある企業では働く意欲の高さや朝に強いといった高齢者の特徴に着目し、60歳以上に限定して採用を行って成果をあげているという。

― キャリアのある高齢者を生産的担い手として認め、就労を促進するのはとても合理的だし、いい取り組みだと思いますよ。

谷本 この企業では、工場の稼働時間延長に伴う人員補充で、ハローワークや人材派遣ではなく、新聞広告の折り込みチラシを使って、高齢者募集を直接呼びかけたんだ。そうしたら、5人の枠に20人の応募があって9人を採用したそうだ。

受注増に対応するため、早朝(朝5時)から工場を稼働させようという企業側の要望と早朝勤務も苦にならない高齢者とのマッチングが成功した事例ではないか。高齢者には貴重な働く場の提供であるし、会社側も立派な戦力を確保できたと歓迎していると聞いている。

企業が高齢者の能力や経験の活用に目を向けることは大切だし、高齢者も意欲を持って働き、社会で活躍し続けることが、本人の生きがいにもつながる。高齢化が進む日本では、元気な高齢者の活躍は、社会の活性化に不可欠だし、高齢者の就労促進、社会参加は積極的に後押ししていきたい。

避けられぬ外国人介護人材の活用

― 少子化、超高齢化社会が進む中で、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となるいわゆる「2025年問題」が言われていますが、石川県としてはどう対処していくのでしょうか。

谷本 国によれば、2025年には、石川県では23000人の介護職員が必要と試算されている。支援を必要とする高齢者が増えれば、支える介護人材の確保、育成も大きな課題になる。幸い、関係業界とともに人材確保を進めてきた結果、県内では介護職員数は着実に増加している。(県内介護職員数/平成29年約19000人)

もちろん、介護職を希望する人は年々減っているし、引き続き、新卒者の確保、他分野からの転職、それに過去に介護職の経験のある潜在人材を再び職場に戻すとか、国内人材の確保に努めなければならない。それでも十分ではなく、外国人介護人材の導入は避けて通れない。

外国人の受入れにはいろんな課題があるが、平成29年に、新たな在留資格として、技能実習制度に介護が、高度専門職に介護福祉士がそれぞれ追加された。これを契機に、県内でも外国人の人材が増えていて、既に各施設で貴重な労働力となりつつある。

地域全体で世代間を助け合う

― 人生を100年というスパンでとらえると、「四世代共生の地域社会づくり」というのが一つのキーワードになるのではないかと思います。かつての大家族のように各世代の助け合いがあれば、幼児虐待や老人の孤独死などは起きにくいのではないかとも思いますが、四世代共生ということをどう思われますか。

谷本 今も核家族化は進んでいる。石川県でも、祖父母と同居していない核家族の割合が年々上昇していて、平成2年の国勢調査では5割台だったのが、平成27年の国勢調査では7割を超えていた。核家族化の増大は、ライフスタイルや就労形態の変化等に伴う全国的な傾向で、この流れを変えることは容易ではないと考えているが、こうした変化にも柔軟に対応し、各世代が協力し合える環境を整えていきたい。

確かに、お年寄りから子供まで同居していたかつてのような家庭内での世代間の支え合いというのは、今日ではあまり機能しなくなってきた。これから、大家族の所帯に戻ろうといったってできるものではないし、これまでの「家庭内での共生」から地域全体で支え合う「地域での共生」、別の言い方をすれば「共助」の重要性は高まっていくと思う。

― 世代連携の仕組みを地域社会にどう作っていくかは、人生100年時代の大きな課題だと考えています。行政として推進していく方策はないものでしょうか。

谷本 13年前の能登半島地震の時、あれだけの災害にもかかわらず、数時間のうちに地域住民の全安否が確認でき、人的被害を最小限に食い止めることができた。これは、被災地が、従来から地域の「絆」を大切にする地域であったことによるものでないかと考えている。石川にはこうした、濃密な地域コミュニティーの名残があるといってよく、これを活かせば、世代間の共生、共助の社会が実現できるのではないか。

とくに、子どもが独立するなどして単身世帯となった高齢者については、社会での孤立化が懸念されるわけで、行政だけでなく、地域全体でこうした高齢者を見守り、支え合うことが重要になって来る。県としては、とりあえず新聞や郵便などの民間企業の方が、通常業務の中で独居高齢者の異変に気付いた場合に市町へ連絡する「地域見守りネットワーク」の構築を進めたり、高齢者の買い物等を支援するボランティアを地域における共助の担い手として支援する体制を取っている。

求められる「安心」の仕組みづくり。少子化対策は、まず“縁結び”から。

― 政府の「人生100年時代構想会議」では、基本構想に、幼児、高等教育の無償化や待機児童の解消など若年層に対する施策を強く打ち出しています。超高齢化社会の対応は少子化問題と表裏の課題と言えるかと思いますが。

谷本 子育て支援を求めている若い世代が、安心して地域の人に子どもを預けられるよう、市町のファミリー・サポート・センター事業の運営を支援している。この制度でサポートを提供している方の4割強が、人生経験豊かな祖父母世代の方々だ。地域の子育て支援に、地域のお年寄りの存在は欠かせないと言える。

石川では、戦後一貫して人口増加が続いていたが、平成17年に初めて人口減少に転じており、少子化対策は焦眉の急だ。子供を増やすには、まず結婚だろう。以前は、年頃になれば親戚だとか、世話好きな人とかがいて、縁談が持ち込まれたものだが、地域社会の中での関係が薄れたこともあってか、そういうお世話をしてもらう機会が少なくなった。一方で、県の調査では、未婚者の約6割が結婚を希望しているけどできない理由として「出会いの機会がない」と回答している。

まあ、今でも男女の仲を取り持つ役割を誰かが担わなければということで、結婚相談やお見合いの仲介をするボランティアを「縁結びist」として養成して登録するようにした。これまでに500名を超える方が登録し、既に千組ほどの成婚に繋がっているようだ。今年は、エンゼルプラン改定に合わせ、さらに取り組みを強化するつもりだ。

生きがいが心の健康を保つ

― 健康とは本来、身体と心が一体となって健全であるべきものと考え、私どもは身体を鍛えるスポーツジムと同様に、メンタルを強くする「心の健康ジム」の創設を説いています。100年を生き抜くには、体の健康はもとより「心」や「精神」の健全化も重要になるという視点をどう思われますか。

谷本 高齢者が、元気で自立した生活をできるだけ長く送るには、日常生活の中での健康づくりが重要なことは言うまでもない。バランスのとれた食生活を心がけること、日頃から体を動かすこと、そして生きがいを持って心豊かに生活すること、みんな大事な要素だ。

運動と合わせて、心の健康を保つというのはその通りで、精神的な健康を保つには、生きがいを持ち、積極的に社会参加することが大切なのではないか。超高齢化社会を迎えた今、住み慣れた地域で安心していきいきと自立した生活を送っていただくためには、心身ともの健康が不可欠だと思う。

― 高齢者が生き生きと暮らす地域社会をどう展望できるでしょうか。

谷本 石川では、高齢者の社会参加の事例が結構目に付く。例えば、大阪の池田小学校で発生した児童殺傷事件を受けて、平成13年に金沢市の大浦小学校でスクールサポート隊が設立され、全国に先駆けて学校と地域が一体となった通学路の見守り活動を開始している。その後、この取り組みが県内全域に広がり、今では18000人ものボランティアの皆さんが登録し、精力的に活動していただいている。支えているのは地域の高齢者の方々で、生き生きと参加されている。

県では、高齢者の閉じこもりを防止し、地域の活力となってもらえるよう、「いしかわ長寿大学」や「ゆーりんピック」など、高齢者の社会参加や生きがいづくりを支援している。長年培ってきた、豊かな経験や知識、技能を活かした社会参加や地域貢献は、自身の生きがいづくりにもなるし、地域社会の活性化にもつながる。そうしたアクティブな高齢者を積極的に支援し、ともに共生の地域社会づくりを石川の地で進めていきたい。

コロナウイルスからの再生に向けて

― 今回のコロナウイルスは、地域社会に甚大な後遺症を残しそうです。社会の変化をどう捉え、これからどのように再生を図っていくか、今の思いは。

谷本 感染拡大防止のため、一時は県民の皆様や事業者の皆様に大変なご不便をおかけしました。お陰様で感染拡大に一定の歯止めをかけることができたものと思う。ご協力いただいた皆様に率直に感謝を申し上げたい。

これからは、ウイルスと共生しながら感染症対策と社会経済活動の両立を図っていかなければならない。政府が言う「新しい生活様式」の実践によって、リスクをコントロールしながら行動するという発想の転換が必要だと思う。県民の皆様と一緒に試行錯誤を繰り返しながら、安全で安心な石川の実現に向け取り組んでいきたい。

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